看護師の注射、点滴エピソード

よく他人からは血を見るのが怖くないのか、などと聞かれるんですが、答えは怖くないです。

正確に言うと「怖くなくなった」の方が正しいです。

新人の頃、初めて患者さんに点滴の針を刺す前には先輩の胸、ではなく腕を借りて練習しました。

どこに何の神経が通っているからここの血管はなるべく刺さない方が良いとか、末梢にある血管、つまり心臓からより遠い部位の血管を使うのは最後にした方が良いよ、などと学生の頃には学ぶことができなかった実践の内容を経験豊富な先輩ナースから指導を受けることができます。

そうはいっても先輩の腕なので、それはそれは緊張します。

怖い先輩もいたりしますのでね。

恐る恐るオドオドしながら針を刺すんですけれども、もたもたしているもんだから刺される方の先輩は痛いし、自分も緊張しすぎて手順も忘れて頭が真っ白になってしまうわけです。

とにかく最初は大騒ぎなわけなんですけれども、ある程度慣れたら同期の新人同士の腕を使って練習をします。

それでだいたい問題なく刺せるようになったら、ようやく患者さんに点滴や注射をさせてもらうというわけですね。

それも最初は先輩に横についてもらって見守ってもらって、っていうことでした。

患者さんには3回以上の失敗はもう許されませんので、2回失敗した時点で先輩ナースに代わります。

なぜなら患者さんは普段から検査や治療でつらい思いをされているので、なるべく痛みを伴うような採血や点滴などは最小限の痛みで済ませてあげたいというふうに思っているからです。

なら最初から技術の高いナースだけが採血や点滴をすべきじゃないんですかということなんですけれども、今後これからの将来を担っていく未来のナースたちを育てていくためには最低限必要なことなのかなと思います。

いま私は看護師になり十年以上経つんですけれども、いまはもう難なく採血、点滴なども出来るようになりました。

それも新人時代から出会ってきた多くの患者さんが嫌な顔をせずに「いいよ、いいよ。俺の腕で練習しなよ」なんて優しい言葉をかけてくれ、数をこなしてこれたからだと思います。

そういった患者さんあっての看護師としての自分ですので、先輩を含め出会ってきた患者さん達にはもう感謝せずにはいられません。

よく注射の上手い下手でクリニックを選ぶ患者さん達がいます。

特に子どもに予防接種をさせなくてはいけないお母さんたちは、注射が上手い小児科クリニックを選んだりすると思います。

私は自覚は特にはないんですけれども、よく患者さんの方から痛くなかったよって、なかなか上手いですねなんて言われたりします。

医療従事者の上手い下手の違いって、実は思い切りの良さ、注射を打つ思い切りの良さなんじゃないかなと思います。

これ刺したらこの患者さん痛い思いするだろうなとか、かわいそうだなと思わないことですね。

躊躇せずに思い切り、がしっと行くということですね。

特にお子さんですね、子どもなんですけれども、よく痛くないから大丈夫よって無理に連れてくるお母さんがいるんですけれども、いろいろな理解ができるようになる4歳くらいから良く説明してあげることですね。

予防接種というのは痛いんだよと、痛くないわけないよと。

でもすぐに終わるし、後で熱が出たりとかして大好きな幼稚園を休まないようにするためにも必要なものなんだよということを説明してあげてください。

子どもは、子どもとはいえ痛みを受け止めるため小さな覚悟をします。

ちゃんと説明すれば暴れだすこともなく、泣きそうな顔を歯を食いしばって注射を受けてくれます。

涙を溜めて我慢ができた小さな患者さんが勇ましくかわいく思えて、終わった後に思わずラムネやキャンディーをあげちゃったりします。