よく噛むことは人類の「ズレ」を調整してくれる?

食べ物の咀嚼の回数というのは、
今と1,000年前ではまったく違います。

今の私達の生活においては、
ほとんどかまなくても簡単に飲み込めるものが中心です。

その結果、噛むという習慣自体がすたれてしまっています。

実際、現代人の顎は昔に比べて細くなっていますし、
未来予測において100年後の人の骨格を予想する際も、
必ずと言っていいほど顎がさらに補足描写されます。

ルックスとしてはそれで問題ないかもしれませんし、
あまり顎がガッシリしている顔は歓迎されないでしょう。

しかし、健康面で見るとどうでしょう?

様々な問題を抱えているというのが実際のところです。

まず、咀嚼が脳に及ぼす影響です。

噛むという行為はストレスを緩和する作用があります。

日本が初めて出場したサッカーのフランスワールドカップにおいて、
城彰二選手が試合中にガムを噛みながら笑っていたことが
一部では非難の対象となりました。

シュートを外し、結果を出せないのに態度が悪いと。

しかし、その後にガムはストレス解消やかみ合わせの補強のため、
笑っていたのはスポーツ心理学にもとづいて
プレッシャーを軽くするためと説明されるようになりました。

大リーガー等もガムを噛んでいることが多いですが、
大きなプレッシャーにさらされる大舞台での戦いにおいて、
咀嚼という行為はとても有効なのです。

20分以上噛むとストレスが緩和されるという研究結果もありますが、
もちろんこれはガムに限った話ではありません。

普通の食事にしても同じことが言えます。

噛むのは面倒に感じますが、実はストレス解消につながるのです。

また、脳の活性化という側面も見逃せません。

頭と体というのは切り離して考えがちですが、
実際の脳科学の分野においては肉体との連動性が証明されています。

噛むという行為にしても、
脳に刺激を与えて働きを活性化させることが知られています。

そのため、仕事や勉強に好影響を与えるだけではなく、
認知症の予防にもつながるのです。

柔らかい食べ物は、その機会を潰してしまうことになります。

よく噛むと満腹中枢を刺激するという話も聞いたことがあると思います。

人間は食事をし始めてから、
満腹中枢が刺激されるまでにタイムラグがあるので、
噛んでいる間に時間を使うと、
その意味でも満腹になりやすくなるのです。

現代人は基本的に飽食・暴食の傾向にあります。

地球規模で見れば飢餓に悩まされる人も数多くいますが、
日本人に(あるいは先進国の住人に)限って言えば
食べ過ぎがもたらす健康被害の方が圧倒的に大きくなっています。

人間の体は昔から栄養が足りない状態と戦ってきました。

1日3食の食生活がエジソンの発明したトースターを
普及させるためのマーケティングだったことは有名ですが、
それ以前から常に食うや食わずやというのが
人類が長年たどってきた道です。

戦国時代や江戸時代にしても、
何度も飢饉が起こってきたのは歴史上の事実です。

それに対応した体になっているのに、
大量の食事を摂取することで体は大きな負担を強いられます。

1日10分程度の使用を見込んで作ったドライヤーを
1時間以上連続で使用するようなものです。

オーバーヒートしてしまっても仕方ないでしょう。

特に胃腸を中心にした消化器系は負担を強いられることになります。

特に現代の食事は油を大量に含むので、
飲み込みやすくても消火器には厄介です。

油を好むこと自体が飢えの時代にカロリーを渇望する名残ですが、
それが種々の病気の原因になってしまっているのです。

よく噛むことで食事量も減らすことができるので、
本来の人体が想定している昔の食生活と、
実際に私達が取っている食事とのズレを小さくできます。

環境への適応は一朝一夕には進みません。

飽食になったのはこの数十年の話です。

当然、本能は昔の生活を引きずっています。

そのズレの調整手段の1つに、よく噛んで食べるという
基本的な習慣が役立つのです。