以下は現役看護師の方に聞いた話です。
「これはちょっと思い入れのある患者さんの話になっちゃうんでしょうかね。
病棟自体が癌の患者さんがとても多くて手術で癌を取り除くんですけれども、やっぱり再発してしまって、また再手術をしてそれでもダメで抗がん剤を始めて、抗がん剤も効かず対処療法ですね、痛みだけを取り除くとためだけに病院に入院してといったケースをたどる患者さんがとても多かったんですけれども、その中でひとり、とても仲良くなった高齢者の患者さんがいまして、おじいちゃんだったんですけれども、Kさんという人だったんですが、ちゃきちゃきの江戸っ子という感じでお祭り大好きみたいな患者さんでした。
まさにこの患者さんによって私は成長させてもらったと思うんですけれども、新人の頃に採血とか点滴がなかなかやっぱり上手くいかないんですが、この患者さんが自ら腕を差し出してくれて、「俺の腕で練習しな
と言って、ありがとうございますということで遠慮なく何度も何度も刺さらせてもらって、おかげでみるみるうちに腕が上達したんですけれども。
仕事で嫌なことがあったりすると、本当はこんなこと患者さんには愚痴ったりしてはいけないんでしょうけれども、愚痴も聞いてくれるような患者さんでした。
「でもまあ新人だからしょうがねえな」と「もう少し辛抱しな」とか。
「いつか自分が中心になってこの病棟を回せるときがくるんじゃねえか」と励ましてもらって、三年、四年と同じ病棟にいるんですけれども、会う度に私も技術も上がり知識も増え、後輩もできという形でみるみるうちに立場が変わっていくね、なんてそれと同時にKさんの方は一番最初に入院してきたときと比べて徐々に弱っていく感じがあったんですけれども。
この方は地域の方にすごい貢献されている方で、何かあるたびに病院の方にも差し入れを持ってきて、看護婦さんへなんて言って家で作ったちらし寿司を持ってきてくれたりだとか、暑い日には皆さんでどうぞなんてジュースを持ってきてくれたりだとか。
私が理想とする看護師と患者の関係がそこにあったのかなと思います。
今でもこの患者さんとの関係が基本になっているというか、ものすごい信頼関係の下で医療行為が、あと看護の提供ができたんじゃないかと思います。
最後はモルフィネという癌の痛みに耐えられるような麻薬を打つんですけれども、この麻薬を打つと痛みはなくなるんですけれども、意識が朦朧として自分が誰だかわからないといった状態になってしまいます。
なので最後は奥さんのことも分からなくなって、病院のスタッフの方のことも分からなくなって、眠るように亡くなっていったんですけれども。
お世話になった看護師たちもみんな患者さんのところに並んで、最後見送った、看取ったという話です。
入退院を繰り返していると半分家族みたいな感じになります。
なのでその患者さんが亡くなった時に泣いている看護師さんはたくさんいました。
私もその一人でしたが。
なので入退院を繰り返す患者さん、癌のため泣く泣く繰り返す患者さんもいれば、同じことを、同じ過ちを何度も、たとえば薬物依存とかそういったことで自殺企図とかあったりして、そういったことで繰り返す患者さんもいると思うんですけれども、このKが私の中では入退院を繰り返した患者さんのお話です。」